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独創的低侵襲医療デバイスの創製およびその臨床応用
Development of new medical devices with high performances and its clinical application

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●山内研究室 発表ポスター(pdf:3.2MB)


山内清
 Kiyoshi Yamauchi
 
1.研究の目的と意義

ガイドワイヤー、カテーテル、ステントなどを用いた「血管内治療」デバイスは、末梢系などその適用領域の拡大と伴に、操作性、信頼性、安全性の更なる向上が強く求められている。本研究では、形状記憶合金を用いた新規医療用コア材の開発およびそれらを用いた医療デバイスの開発を目的とする。これまでの医療デバイスが持ち得なかった機能性付与のための材料の研究開発とその実用化は、医療現場が待ち望む極めて意義の高い研究と成り得る。

 
2.TUBERO終了期限内での到達目標とそのための研究方法

研究代表者および共同研究分担者が、研究を進めているCu系、Ti系、Ti-Ni系合金などの新規スマート材料を新しいコア材として完成させると同時にそれらを用いたデバイス化の研究、評価を内外医療機メーカ、臨床医との連携を軸に進める。具体的な到達目標は以下である。
(1) Niフリー Ti-Mo-Sn超弾性合金の開発とそのマイクロカテーテルへの応用
(2) 風船拡張型Ti-Ni-Nb超弾性ステントの提案とその生体内機能性評価
(3) 高操作性ガイドワイヤーの創製とその臨床評価(Cu-Al-Mn系及びTi-Mo-Sn系合金)
本研究では、上記目標を達成するために、合金設計、溶解、加工、デバイス組み立てを行い、その機能性を評価すると共に、アノード分極測定、細胞毒性評価を行い生体安全性評価、動物を用いた操作性評価を行い新規医療デバイスの開発を検討した。

3.目標達成状況

(1)Niフリー Ti-Mo-Sn超弾性合金の開発とそのマイクロカテーテルへの応用
 最近、Ti-Ni形状記憶合金に含まれるNiのアレルギーが懸念視されている。そこで本研究では、Niを含まないTiをベースとしたTi-Mo-Sn形状記憶合金の高性能化およびチューブ化を図り、マイクロカテーテル等への適用を試みた。図1(a)にTi-6at.%Mo-4at.%Sn合金ワイヤーの応力‐歪み曲線を示した。本合金は、40GPa程度の低ヤング率を示すと共に3%以上の回復可能歪み量を示す。本合金ワイヤーは、歯科用材料としての製造承認を取得し(管理医療機器(クラスII)、認証番号:218AFBZX0003800、販売名:ネオチタンワイヤー)、新規高弾性クラプスワイヤーとして期待されている。さらに、酸化物形成傾向の強いScの添加および適切な加工法の選択により、図1(b)に示すように柔軟かつ大幅に超弾性特性を改善できることが分かった。図2に示すように本合金のチューブ化にも成功しており、生体に安全な超弾性金属製カテーテルコアとしての実現が期待される。
また、本合金は、ステンレス、Ti-Ni合金に比較し、優れた耐食性を有すると共に、優れた細胞適合性を有していることをアノード分極測定および細胞毒性試験より確認した。

(2)高操作性ガイドワイヤーの創製とその臨床評価
Cu-Al-Mn系合金およびTi-Mo-Sn系合金を用い、コア材の先端部から末端部までの材料組織を制御することにより、先端部は超弾性、本体部は高剛性を有する機能傾斜型ガイドワイヤーコア材の開発を行った。図3に機能傾斜型ガイドワイヤー試作品および図4にコア材の特性を示す。本研究では、図4(a)に示した温度傾斜炉を用い、材料の組織を制御することにより剛性傾斜化した。図4(b)に示すように、本ガイドワイヤーは、高剛性本体部かつ超弾性先端部を併せ持つ機能傾斜型特性を有する。ここで、図4(b)中の(i)〜(vi)は、図4(a)中の各コアワイヤー部(i)〜(vi)の引張応力‐歪み曲線を示す。機能傾斜型ガイドワイヤーは、高剛性本体部を持つため、優れた突き出し性およびトルク伝達性を有すると共に、先端部が柔軟であるため操作性に優れることが分かった。

(3)風船拡張型Ti-Ni-Nb超弾性ステントの提案とその生体内機能性評価
風船拡張型ステントの高い留置任意性かつ自己拡張型ステントの優れた血管壁追従性を兼ね備えた風船拡張型超弾性ステントを実現するコア材としてTi-Ni-Nb超弾性合金に着目し、その機能性発現のための基礎的知見を得た。形状記憶合金は、マルテンサイト構造⇔オーステナイト構造の可逆変態により形状記憶効果や超弾性効果を示す。本研究コンセプトは、柔軟なマルテンサイト状態にてステントを体内留置し、その後加温にてオーステナイト状態とし超弾性化することである。一方、体内での加温は、生体組織へ悪影響を及ぼす危険性があることから、風船拡張後の加温を必要としない末梢血管用ステント適用可能性を見出した。図5に、ステント屈曲部を模した“く”字形Ti-Ni-Nbサンプルの繰返し荷重‐押込み曲線を示す(試験方法は挿入図参照)。比較のため風船拡張型ステントのコア材として主として使用されているステンレス(SUS316L)およびCo-Cr系合金についても示した。図5より、ステンレスおよびCo-Cr系合金は、高い弾性率および強度を有しているが、塑性変形し易く、大変形後には大きな塑性歪みが残留する。一方、Ti-Ni-Nb合金は、他の材料に比し、強度は低いが大きな弾性変形領域を有し塑性変形し難い事が分かった。この事は、Ti-Ni-Nb合金は、風船拡張型高弾性ステントに成り得る可能性を秘めている。また、本合金は、既臨床材であるTi-Ni合金と同等の耐食性、細胞適合性を有することを確認しており、本研究では以上の知見を基に風船拡張型高弾性ステントを試作し(図6)、ビーグル犬の外腸骨動脈を用いた動物実験を試みている。

4.今後の展望

現在、材料開発、デバイス試作および動物実験評価を行っているが、引き続き操作性、生体安全性を実証し、実用化を目指す。Ti-Mo-Snチューブは、その高耐食性、高生体安全性より新規ステントコア材としても有望であり、更なる細径化技術確立を図る。また、Ti-Mo-SnやCu-Al-Mn超弾性合金を先端部に、本体部にコバルト合金などの高強度材料を配置した異種金属接合型のガイドワイヤーの創製が期待され、その具体化も検討中である。ひずみ負荷によって超弾性特性を制御できるTi-Ni-Nb合金は、高い留置任意性、留置後の血管壁追従性が確保できる第三のステントコア材として期待され、脳血管など末梢系への適用を動物実験などによって検証する。

5.外部発表一覧
(1) K. Uchida, N. Shigenaka, T. Sakuma, Y. Sutou and K. Yamauchi “Effect of Nb Content on Martensitic Transformation Temperatures and Mechanical Properties of Ti-Ni-Nb Shape Memory Alloys for Pipe Joint Applications”, Mater. Trans., 48 (2007) pp.445-450./td>
(2) T. Yamamoto, T. Sakuma, K. Uchida, Y. Sutou and K. Yamauchi, “Effect of Heat Aging on Thermal and Mechanical Properties of Ti-Ni-Nb Shape Memory Alloy”, Mater. Trans., 48 (2007) pp.439-444.
(3) Y. Sutou, K. Yamauchi, T. Takagi, T. Maeshima and M. Nishida “Mechanical properties of Ti−6 at.% Mo−4 at.% Sn alloy wires and their application to medical guidewire”, Mater. Sci. Eng. A, 438-440 (2006) pp.1097-1100.
(4) Y. Sutou, K. Yamauchi, M. Suzuki, A. Furukawa, T. Omori, T. Takagi, R. Kainuma, M. Nishida and K. Ishida, “High maneuverability guidewire with functionally graded properties using new superelastic alloys”, Min. Inv. Ther. & Allied Tech., 15 (2006) 204-208.
(5) H. Semba, N. Okabe, T. Yamaji, K. Okita and K. Yamauchi, “Axial Compressive Behavior of Single-stage Bellows of TiNi Shape Memory Alloy for Seismic Applications”, Mater. Sci. Forum, 475-479 (2005), pp. 2055-2058.
(6) H. Semba, N. Okabe, T. Yamaji, K. Okita and K. Yamauchi, “Processing of Single-stage Bellows of TiNi Shape Memory Alloy using Rubber Bulge Method”, Mater. Sci. Forum, 475-479 (2005), pp. 2059-2062.
(7) Y. Sutou, T. Omori, K. Yamauchi, N. Ono, R. Kainuma and K. Ishida, “Effect of grain size and texture on pseudoelasticity in Cu-Al-Mn-based shape memory wire”, Acta Mater., 53 (2005) pp4121-4133.
(8) T. Takagi, Y. Sutou, R. Kainuma, K. Yamauchi, K. Ishida, “Effect of Prestrain on Martneisitic Transformation in a Ti46.4Ni47.6Nb6.0 Superelastic Alloy and its Application to Medical Stent”, J. Biomed. Mater. Res., Part B: Applied Biomaterials, 76B (2005) pp179-183
(9) 須藤祐司、“新規形状記憶合金の開発とその応用”, まてりあ, 44 (2005) pp604-607.
(10) 山内清, 形状記憶合金の製造方法, 日本機会学会誌, 107,1028 15-16 (2004).
(11) 山内清, 形状記憶合金の課題と展望, 日本機会学会誌,107,102839-41 (2004).
(12) 山内清, 形状記憶合金, 日本AEM学会誌, 12,3,163-168(2004)